現在14階まで進めたので、忘れないうちに二次創作ー。
ほんのちょこっとだけ第二階層・第三階層の見た目のネタバレかも。
正規メンバーメディック男のユールと、アイテム採集専用キャラ(笑)のレンジャー女、カリルのお話です。やや甘ずっぱめです。あと、ファンタジー好きの妄想パワー爆発です。




 羊歯の葉陰に、こつりこつりと鎚の音。一心に岩を掘り続ける小さな後姿を、ユールは地面にだらりと腰を下ろしたまま見つめていた。
 掘り当てた化石の欠片をカリルはいかにも大事そうにそっと両手に持ち、軽く息をかけて埃を払う。
「器用なもんだよなあ」
 半分独り言のつもりが、彼女は聞きつけて振り返った。大きな目がしぱしぱとまばたき。頬に砂屑が飛んで斑になっている。
「なあに?」
「すげえなあ、って。真鉄と石の見分け方なんて、俺さっぱりわかんね」
「あたし山育ちだしね。慣れっこになっちゃった」
 そっと化石を小さな山となった「戦利品」の隅に置いてやる。それから、休憩休憩、と軽い足取りで彼の横に腰かけ、足を伸ばした。
 顔を、拭いてやるべきなんだろうか。言い出しかねて、口が変にもぞもぞする。
「でもちょっと疲れたなあ。手袋も真っ黒」
 汚れた厚い皮手袋を脱ぎ捨てると、つるりと白い腕がのぞく、と、二の腕のあたりに薄く赤い筋が走っていたのをユールは見逃さなかった。
「そこ、見せろよ」
「そこ?」
 指差すと、自分でも気がついていなかったらしく目が丸くなった。
「え、どこで切ったんだろ。でも平気だよ、これくらい……」
「消毒しとかないと怖いの。わけわかんねえとこなんだから、わけわかんねえ毒が入ったらどうすんだよ」
 どこか遠くから火食い鳥の鳴き声が聞こえ、彼女は少しおびえたように腕を差し出した。
「うー、じゃあ、またお世話になります」
 ちょいちょいと薬を塗って、軽く絆創膏を貼ってやる。今日で一体何度目になるだろうか。同じことをカリルも思ったらしく、力なく笑った。
「もうちょっと、みんなみたいに戦うのが上手かったら……こんなに迷惑かけなかったかなあ」
「別に迷惑はかけてないっしょ」
「でも、あたし倒れてばっかりだし」
 彼女は、既に調査が終わった地域で資源を得るために、採掘の得意な人材として雇われた。深部を探索するギルドの中心メンバーと比べれば、体力的にも戦力的にも確かに見劣りするのは否めない。実際、一人足元がおぼつかない彼女を獣たちは格好の獲物と判断し、集中的に襲いかかることも多々あった。その度にユールは包帯を巻く。
「あのさあ、俺の仕事はその辺のフォローだろ? お前の仕事は頼まれたものを掘り当てること。他のみんなはお前を守ってまた街まで送り届けるのが役目。適材適所でやってるだけなの」
 俺は別にいいんだよ、とは言わなかった。血のあふれる傷口を押さえて顔を歪めるカリルを見たくはないから、と。治療が終わって、ほっとした顔で言うありがとうの一言が聞きたいだけなんだよ、とは。代わりにわざとぶっきらぼうな口をきく。
「適材適所かあ」
 奇妙な形に伸びた樹に寄りかかって、高い天井を見上げる。深い深い第二階層には、陽の光も届かない。
「ユールは、なんでメディックになりたいと思ったの?」
「俺? 別に大した話じゃないよ」
「聞かせてよー」
 なんとなく、いつもより背筋を伸ばす。そして彼は、ぽつりぽつりと話始めた。それは、秘密というほど大げさではないが、誰にも聞かせたことのない一つの物語。少し、心の奥がしくりと痛んだ。


「俺の住んでたとこはさ、まあだだっ広い何にもないとこなんだ。のどかに羊なんか飼っててさ」
 こことは大違いの、穏やかに明るい陽の射す、柔らかな緑の平原を思い出す。
「獣なんかも、家畜を食いに来るやつはいたけど、人里までは襲わないし。外から人も来やしないから、流行り病なんかも聞いたことなかったな」
 うんうん、とカリルがうなずく。山育ち、という彼女の出身地とはだいぶかけ離れた土地なのだろう、と思った。
「だから、医者っていうのがいないんだよ。それなりに怪我の処置ができるのはいるんだけど。最新の医術、とか、知らない病気の時にどうすればいいのか、とかそういうのを研究してる人がさ」
 隣の家に住む男は、骨を折った時の添え木の具合がおかしかったらしく、よく足を引きずっていた。熱を出した子どもに氷嚢を与えることしかできずに、わが子を失った母親もいた。彼は自分の皮手袋を外す。
 もうだいぶ薄くはなったが、きっと一生消えない、手の甲から肘にかけて走る、白い傷跡。
「何年前か忘れたけど、屋根の修理してる時に落ちたんだ。他は打ち身で済んだんだけど、ここだけ岩で切ってさ。化膿して、熱が出た。三日くらい寝込んでた。で、目が覚めたらさ、なんか切る切らないの話になってんだよ。そんなの、ひょっとしたら、ほっとくより危ないことになるかもしれないだろってくらいは子どもでもわかってさ、ぞっとした」
「それで?」
「それで、まあ、もうちょっと上手くやってたら、俺みたいに助かったやつがいたのかな、なんて考えるようになって……羊なんかもさ。病気出したら、すぐ隔離して始末して、とかやってたし。そういう話を親にしたら、案外ちゃんと聞いてくれて、街の先生につかせてもらって、しばらくそこで修行してたんだ」
 樹海に潜る前のことだから、まだ一年も経っていない頃だ。それでも、なんだかずっと昔のように思えた。
「じゃあ、なんで冒険者になんてなったの?」
「だって効率悪いんだよ、町医者って。俺は本読むばっかで、先生が治療してるとこを見てるだけだしさ。もっと実践的なことやりたいですって言ったら、じゃあエトリアに行け、その代わり死んでも文句は言うなってさ」
 金も稼がなきゃならなかったし、とこれはもそもそ言うと、カリルは笑顔になった。
「お母さんに、でしょ? 優しいんだ」
「そりゃ、跡継ぎが羊ほっぽってふらふらしてんだから、少しはなんとかしないと不義理ってもんだろ」
「やさしいー」
「うるせー」
 頭を撫でようとでもしたのか、顔と手を近づけてくるものだから、きまり悪くなってそっぽを向く。代わりに極彩色の羊歯の葉が頬を撫でた。
「ほんとはこんなとこまで来るつもりはなかったんだけどなあ」
 ため息と共に、独り言めいた思いがほろりと漏れた。
「上の方で新米相手に治療してるつもりが、たまたまノースさんと知り合いになって、成り行きでここのギルド入って……」
 指折り数える。どこで間違えて、こんな深層までたどり着いたのやら。
「そろそろ村に帰ってもいいはずなんだよな」
 カリルの目がぱちくりした。しまった。彼は慌てて口を閉じる。もう遅い。
「そっか、元々あっちでお医者さんやるはずだったんだもんね」
「や、でも、まだしばらくはギルドにいる、と思う……。俺、なんか頼りにされてるっぽいし」
「うん」
 寂しげな声だった。少しは、自分がいなくなってほしくないと、そう思ってくれているのか。それは喜ぶべきことなのか。
 なんにしろ、彼女の中の地図のどこかに、大きく行き止まりの壁が引かれてしまった気がした。自分が、自分の意思でいつかはここから去るとしても、「いつかは会えなくなる人」という箱に、ひとまとめに入れられてしまうのはごめんだ。そんな我が侭な感情が満ちる。彼はまだ、その気持ちを正直に表に出せるほど咀嚼しきっていない。それでも、何かを伝えなければならない、と思った。
「下の方の階はさ、まだまだ見て回ってる途中なんだけど……また全然違うものが採れそうなんだよな」
 突然、飛んだ話題に「え?」と怪訝な声が返ってきた。
「鉱石。掘るの、得意だろ?」
 鎚をふるう手真似をしてみる。
「でもなかなか出てくる獣が手ごわくて、さ。しばらくしたらカリルも連れてってやれると思うんだけど。そしたらさ、絶対お前また狙われて怪我するだろ? その時は」
 ふう、と息を吐いたのが、不自然にとられなかったろうか。手のひらは、ひんやりした汗で湿っている。
「その時は、俺がついててやるからさ。またこうやって包帯巻いてやるよ。下は広いし、今まで見たことないものを欲しがる奴はいっぱいいる。だから、お前の仕事も増えて、今より頻繁に行き来することになるだろ? お前がお前の役目を果たすんだから、俺も俺の仕事をしないと、な。このギルドのメディックは俺一人なんだから」
 だから、頼む。そんな、泣きそうな顔はしないでくれ。念が通じたのか、彼女はゆっくり、小さな唇の端を上げてくれた。単なる先延ばしの言葉に過ぎないというのに。それから、ゆっくり立ち上がって伸びをした。
「ユール。これ、あげる」
 地面から、小さな、売り物にはならないような石の欠片を拾って差し出す。よく見ると、一部が欠けた何かの化石らしい。黒くつや光りしている部分がある。
「多分、大昔の貝だと思うんだ。この辺、ずっと前には海だったみたい」
 約束のしるしね。受け取って、まじまじと見つめている彼に、カリルはそう言った。それから、再び鎚を持つと採掘に戻ったようだった。
 多分、お前には言ってなかったよな。ユールは胸の中でそっとつぶやく。この下の階層、階段を下りた先は、まるで海のような青い静かな森なのだと。この貝も、そこから来たのかもしれない。
 いつか、連れてってやるからな。彼は、化石とその思いを、そっと鞄の小さなポケットにしまいこんだ。




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書き始めのときはほんと、最後に匂わせる程度にしようと思ってたんですが、気がついたら普通にラブ話になっていました。おかしいなあ。
単純にオリジナルに近くなってしまうから、世界樹カップリング抜きでいこうと思ってたのになあ。これもおかしいなあ(最萌えはレンジャー→森とか言ってました)。
でも、弱いからすぐやられるカリルをいちいちリザレクションで復活させたり、キュアしてあげたりと世話を焼いているユール君がすごくかわいかったので……(いや、実際世話を焼いているのは自分なんですが)。
カリルは収集用キャラだから、レベル低いし戦闘用スキル全然取ってない子なんですが、正規メンバーじゃなくてもちゃんとギルドの一員として役に立ってくれてるので、その辺も書きたかったんですよ。ちなみに、この話は10階で採掘できるものを集めてくださいクエストの途中という設定です。なんか姿のない他のメンバーは、多分物陰からちらちらにやにや二人を見ているのじゃないかと思います(笑)。
ほんと、どこまで共有できるかあやしいアレではあるんですが、とりあえず萌えは吐き出してみました。


あと、やっぱりファンタジーの架空設定作るのは楽しい!
ポプではロビン君大好きなのもそのせいが大きいです。フェルナンドとかもほんとはちゃんと考えたいんですが、むずかしい。