懲りずに世界樹小説。
先日書いた(既に書き直したくなってる)ギルドできたての話のつづきです。
ほのぼのラノベ調。ネタバレはほぼなし・出会い編なのでプレイ中の出来事とは全然関係ない話です。


「おっかしいなあ……」
「見つからねっすねえ」
「何が問題なんだ……?」
 まだ明るい頃合には人気もまばらな金鹿の酒場。カウンターを占領して、三人がそれぞれにため息をついた。ごろごろと転がる麦酒の瓶を、女将が手際よく片付けながら、
「メンバーのお話? 私もお店に来る人たちにちょっと声をかけてみたんだけど……ねえ」
 軽く首を振る。重くなった空気を振り払うようにリゼルが両手を上げた。
「あのギルドのおっさん絶対うそつきだよ! 新米に声かけたらじゃんじゃん来るって言ってたくせに!」
「まず新米冒険者がいないんだもんなあ」
 酒気にやられ、眠たげに半分目を閉じているユールが、指で透明なグラスをもてあそぶ。その指先までも既に赤く染まっていた。ノースはというと、顔色こそ変わりはないものの、頭が不安定にゆらゆらと右、左、と揺れている。どちらも牛並みの酒豪、というわけにはいかないようである。
「時期が悪かったのかもね。冒険者としてこの街に来たのはいいけど、諦めて街の中で働いている人も大勢いるから」
「ううう、このままじゃ冒険者じゃなくてただの飲んだくれだよう。早く樹海に行きたいよう」
 そう、口をへの字に曲げた時。
「嘆かわしい!」
 割れるような大声が店内に響き渡り、不意を衝かれたノースの指がつるりと滑って、グラスが倒れた。店の隅、四人がけのテーブルを占領した一組の男女。やたらに身体の大きい、街中というのにきらきらと光る鎧をしっかりと身に纏った目立つ風体の男と、やたらに艶めかしい格好の浅黒い肌の娘が差し向かいで何やら話し込んでいる。
「エトリアは探求心にあふれた冒険者のための街だというではないか! それが今はどうだ! 皆が皆既得の利権を怠惰に貪り、身一つの騎士ひとりすらも受け入れんとは、なんたる惰弱!」
「その志、気高きが故に世に……ううん、韻がうまくいかない」
「そう、志よ志! ううむ、もはや古き良き冒険の灯は尽き果てたか……。我輩がこうしている間にも故国は野蛮の輩に踏みにじられ……」
「ひとつ灯の命は〜♪ 片手間で悪いけど、元気出してねー」
 あまりかみ合ってもいない会話だが、嫌でも聞こえてくるその声に、リゼルとユールはゆっくりと目配せを交わす。あれほどまでに身体を満たしていた酒気だが、ほんの少し温度が下がるのを感じた。二人は慌てて声をひそめ、
「あれって……。悪い人じゃなさそうだし、は、話しかけてみる?」
「半分くらい何言ってるかわかんないけど、ひょっとして! ねえ、ノースさん!」
 勢い込んで振り返った先には、いつの間にか立ち上がり、麦酒でしたたかに湿らされた上衣と髪の毛を仏頂面で擦っている青年がいた。心配そうな女将に乾いた布を渡され、乱暴に拭いてはいるがどうも手つきがおぼつかない。目つきもどこか据わっている。酔っている。
「あのう、ノースさん、あっちにいるパラディンの人が……」
 心なしか、声が尻すぼみになった。
「ああ、パラディンな」
 一瞬びくりとするも、普段と全く変わらない声音に少し安心したリゼルが言葉を続けた。
「ちょっと聞いた感じ仲間を探してるみたいなの! うちに誘ってみようかと思ってるんだけど」
「あいつらの声がなぜ軒並みやたらとでかいかというとな」
「……ノース?」
「頭の中身が空だからよくひび」
「あああああ!」
 電光石火、ユールの手が彼の口をふさぐ。パラディンにまつわるお決まりの揶揄とはいえ、誇り高い騎士相手に、見るからに酔った者同士、暴力沙汰にまでなりかねない一言だった。
「なななな何言ってるんですかー! しっかりしてくださいよっ! せっかくギルドに入ってくれるかもしれないのにしょっぱなから最悪じゃないですか!」
「今の絶対聞こえてたって! お店の人にまで迷惑かけるじゃないよー! ばかー!」
 ばたばたともがくところを無理やり二人がかりで押さえつけ、椅子に座らせる、その背後に早くも大きな影がゆらりと現われた。
「失敬、今聞き捨てならぬ言葉を耳にしたのだが」
「いやいやいや、何も言ってないっす、聞き捨てて結構っす」
 ユールの顔面はすっかり血の気が引き、先ほどの赤はどこへやら、という調子。ふむ、と男は腕を組んだ。がちゃり、と甲冑がぶつかり合ういかめしい音。
「いや、我輩確かに聞いたぞ」
 ちらりと見ると、腰にはご丁寧に剣まで下げている。血の気の多そうな男だし、きっともうだめだ。女将はと見ると、止めようとしてかバケツに並々と水を用意している。上衣の染みを気にして果ては濡れ鼠だなんて、実に滑稽なことだ、この馬鹿レンジャー。リゼルは目をぎゅっとつぶった。
「なんでも、ギルドがどうこうとか……」
「えっ?」
 気の抜けた声を出したのが自分だということに、一呼吸置いてやっと彼女は気づく。口を押さえられたままのノースも、目をしばたたかせていた。
「あ、あの、そっちですか?」
「そっち?」
「ややや、なんでもないっすなんでもないっす」
 ユールが首を振るたび、後れ毛がぴょいと揺れた。手が脱力したのか、下にゆっくりと降りる。女将も、構えたバケツを下に置いて成り行きを眺めていた。
「拙者、まだまだ若輩者ではあるが、剣と盾の扱いには少しは覚えがあってな。もしもお仲間に加えてもらえるのであれば実にありがたい! あちらの彼女も詩人を生業としているそうで、歌い継ぐに足る冒険者を探していた。できれば共に、と思っているのだが」
 先ほどの女が、テーブルについたままゆらゆらと手を振っていた。相も変わらずの大声も、ここに至れば頼もしく覚えてくるものだ。失言も、何がどうしてか聞こえていないのであれば好都合。
「大歓迎! こっちからもお願いしたいくらい! いいよね、ノース!」
 有無は言わせないぞ、と背中を強く叩くと、すっかり酔いも醒めた様子でああ、と頼りなげな返事を返した。
「名乗りが遅れたな。拙者はジーグと申す! あちらはサラサ。ひとつよろしく願おうか!」
 豪快な笑い声に女将のあらあら、よかったじゃない、という優しげな言葉が重なる。見交わす笑顔と笑顔……。
「……八つ当たりって、無視されるとそれはそれで腹が立つな」
 ぼそぼそとつぶやくノースの背中を、リゼルはもう一度叩いておくことにした。




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当初の予定よりも大幅にノースさんがアホの子になったよ!
酒場の女将さん大好きです。超いい人だと思う。
この手の話はほんとは全員でボケ倒してるのが好きなんですが、役割のバランスを考えるとどうしても誰かがツッコミやフォローに回っちゃうんだよなー。
力不足です。


最近のノースさんは得意そうな警戒歩行のレベルが、サラサ(上にも出てるけど、バードの女の子)の方が高くなってしまってお株を奪われてしまった感じがたまらなくかわいいです。糸巻き戻り覚えたかったからねー。
一生懸命あたりを見回しながら歩いてるんだけど、いかにも騒がしそうなサラサの方がよっぽど上手くさくさく敵を避けてるんだろうなあ……いいなあ。
しかしなんで私は半分自分で考えたキャラにこんなにめろめろになっているんだろうなあ。自家発電じゃん。